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仙台高等裁判所 平成元年(ラ)71号 決定

抗告人

田 中 市 雄

右代理人弁護士

田 中 洋 平

相手方

打 野 秋 男

主文

一  原決定を取り消す。

二  相手方打野秋男に対する売却は、これを許さない。

理由

一(抗告の趣旨及び理由)

別紙「執行抗告状」(写)記載のとおりである。

二(当裁判所の判断)

一件記載によれば、

1  抗告人は、昭和五一年一二月四日株式会社青森銀行から六五0万円を借り入れ、右債務を担保するため抗告人所有の原決定別紙物件目録記載(1)の土地(以下「本件土地」という。)につき抵当権を設定し、その旨の登記をし、その後、抗告人は本件土地を敷地として同目録記載(2)の建物(以下「本件建物」という。)を新築(昭和五一年一二月二二日新築を原因として昭和五二年一月一一日保存登記)したので、これを右債務の追加担保に供した。

2  その後、抗告人は岩手県信用保証協会との間に信用保証委託契約を締結し、昭和五六年六月二九日右保証委託取引から生ずる債務を担保するため、抗告人所有の本件土地建物に極度額を三六00万円とする根抵当権を設定し、その旨の登記をした。

3  原裁判所は、岩手県信用保証協会からの右根抵当権に基づく申立てにより、昭和五九年七月二六日抗告人所有の本件土地建物について不動産競売開始決定をした。

4  原裁判所は、評価人泉進に本件土地建物についての評価を命じたところ、同評価人は、昭和六0年二月七日付けで、本件土地建物の一括売却を前提としてその正常価格を二五0三万円(内訳敷地一七五0万円、建物七五三万円)と評価し、その旨報告した。そこで、原裁判所は右に基づき最低売却価額を二五0三万円一括売却の旨定めて、その旨公告をして入札を実施(三回)したが、買受け入札がなかった。そこで、原裁判所は昭和六三年六月七日再評価命令を出し、同評価人はこれに対し、昭和六三年一一月二日付けで、本件土地建物の正常価格として、個別売却の場合、土地(底地)一六六三万円、建物(敷地利用権原ない)二五六万円と評価し、一括売却の場合二二六二万円(内訳 敷地一七五0万円、建物五一二万円)と評価し、その旨報告し、さらに平成元年三月三一日付けで右評価を補正し、民法三八八条により法定地上権が設定されるものとして、その正常価格を土地(底地)一0四0万円、建物(地上権付)五四一万円と評価し直し、その旨報告した。

5  原裁判所は、本件土地建物を一括して同一の買受人に売却することとし、その最低売却価額を右評価入の補正したところによる評価(土地一0四0万円、建物五四一万円)に基づき合計一五八一万円とし、平成元年五月二日右内容による期間入札の公告をし、利害関係人に通知した。

6  原裁判所は、右期間入札の結果、相手方打野秋男が二00五万円で最高価買受けの申出をしたので、平成元年七月二一日の売却決定期日において、同人に対し本件土地建物を一括して右申出価格で売却することを許可する旨の決定(原決定)をした。

以上の事実が認められる。

しかしながら、右認定の経過に徴すると、本件建物のため本件土地につき法定地上権が発生すべき場合であるとは認め難いし、その他一件記録によるも法定地上権の設定を認めるべき事由は全く見当たらない。

したがって、原裁判所が執行裁判所として最低売却価額を決定するに当たり、法定地上権の成立を前提として評価した価額をもってなし、その公告をし入札を実施したことは民事執行法一八八条によって準用される同法七一条六号にいう最低売却価額の決定及びその手続に重大な誤りがあるものといわなければならない。

よって、原決定を取り消し、相手方打野秋男に対する売却を許さないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官三井喜彦 裁判官武藤冬士己 裁判官松本朝光)

別紙執行抗告状

抗告の趣旨

1 盛岡地方裁判所が平成元年七月二一日になした売却許可決定は取消す。

2 打野秋男に対する売却を不許可とする。

抗告の理由

1 抗告人は上記競売事件の別紙目的不動産(以下本件不動産という)の所有者である。

2 盛岡地方裁判所は平成元年七月二一日本件不動産につき、打野秋男に対し金二0、0五0、000円で売却を許可する旨の決定をした。

3 本件不動産の評価につき、評価人である泉進不動産鑑定士は昭和六0年二月七日付の評価書においては、土地を金一七、五00、000円、建物を金七、五三0、000円計金二五、0三0、000円と評価したが、その後更に評価を求められたところ、昭和六三年一一月二日付の評価において土地を金一七、五00、000円、建物を金五、一二0、000円計金二二、六二0、000円と評価した。

その後同鑑定士は平成元年三月三一日付で昭和六三年一一月二日付の評価には内容に誤りがあったということで補完書を提出し、評価の更正補完をした。

そしてその補完書においては、土地を金一0、四00、000円、建物を金五、四一0、000円計金一五、八一0、000円と評価した。

4 これに基づき盛岡地方裁判所においては、本件土地建物を一括して最低売却価格を金一五、八一0、000円と定めて、入札に付したものである。

5 盛岡市における本件土地周辺の価格は上ることはあっても低下するという事実がないことは周知の事実である。

然るに泉鑑定士の評価は昭和六0年二月七日付、昭和六三年一一月二日付評価書の土地の評価は金一七、五00、000円であるのに、その内容に誤りがあったとして平成元年三月三一日付の補完書による評価額は金一0、四00、000円と訂正された。

この価格差は金七、一00、000円という大巾なものである。

6 その要因の捉え方によって若干評価価格が若干変動することはあっても右の価格差は大巾なものであり、本件土地付近の実勢価格に比しても相当な低価格の評価である。

泉鑑定士の右の評価額は要因の捉え方も誤っており、前記評価額は誤っておると言わざるを得ない。

7 本件のような大巾な評価価格の差が出たような場合は、別な評価人を選任して新たに鑑定をすべきものである。然るに盛岡地方裁判所においては不当な評価価格にもとづき、これを最低売却価格として入札に付したものである。

なお建物の評価について昭和六0年二月七日付の評価価格より金二、一二0、000円も低下しており同じような問題がある。

8 これは民事執行法第七一条六号の最低売却価格の決定につき重大な誤りがあることに該当する。

9 よって本売却決定を取消し、打野秋男に対する売却を不許可とし、評価を新たにやり直したうえ、本件競売手続を進めるべきである。

物件目録

1 所在  盛岡市みたけ二丁目

地番  七0番一

地目  宅地

地積  三0四.二七平方メートル

2 所在  盛岡市みたけ二丁目七0番地一

家屋番号  七0番一

種類  居宅

構造  木造亜鉛メッキ銅板葺二階建

床面積  一階一二0.八八平方メートル

二階六0.八三平方メートル

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